PROJECT [M]

PROJECT [M] Vol.1

24時間365日、ノンストップで稼働する
巨大な金融系システムを束ねる基盤をつくれ!

大規模アプリケーション基盤開発プロジェクト

絶対に止められない社会インフラの刷新へ

いまや24時間経営の店舗が多く、クレジットカードを使えば深夜、早朝でも買い物ができ、ATMでキャッシングなども利用できる時代だ。こうした便利なサービスの裏側では巨大な金融系システムがノンストップで稼働している。コンビニ、銀行、駅など日本全国にあるATMの台数は膨大だ。しかも、その他の幅広い金融業務を支えるシステムだけに、一時的に稼働が止まるだけでも社会的に大きな影響が出る。今回のプロジェクトは、メンテナンスでも止まらない、24時間365日フル稼働に向けたシステム刷新だった。
プロジェクトの立ち上げにあたり基幹系と業務系、両サーバを円滑に接続する中継サーバの構築を担当する大手SIerからメインに声がかかる。依頼内容は中継サーバで稼働するアプリケーション基盤の開発、メインの得意領域である不断で安定稼動する通信制御に特化したソフトウェア開発技術を見込んだものだった。

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当時、主要メンバーとして開発に携わったSはC言語での開発依頼を受けてスキルを持つ最適なスタッフをピックアップし、開発業務を進めていた。「そんな矢先、契約先が変わったことで、Javaでゼロから作り直すことになったのです。ここで個々のスタッフが意欲的に外部研修などを利用し、新たなJavaのスキルを身に着けてくれました」。こうしたスタッフたちの熱意が実り、順調に開発業務は進んでいく。
しかし、ここまで大規模なシステムのアプリケーション基盤の開発には膨大な時間が必要になる。たびたびスタッフの入れ替えが発生する中、Sは「ノウハウの共有など引継ぎ時の工夫をすることで、高いサービスレベルを維持するように心がけました」と当時を振り返る。そんなSの細やかな気遣いにより高付加価値なアプリケーション基盤の開発は完了する。24時間365日、フルタイム稼働中にもメンテナンスが行え、さらに従来のシステムでは手作業で行われていた運用保守の一部を自動化。業務開発の効率化によるコスト削減、品質向上に貢献する基盤になっている。しかし、ここからが長い道のりの始まりだった。

担当者が行列する門番としての責任

メインの担当したアプリケーション基盤は膨大な台数の業務系サーバ、システムの心臓部となる基幹系サーバを確実に連携させる「つなぎ」の役割を担う。このためプロジェクト内では先行的に開発する必要があり、開発後も膨大な業務系サーバがきちんと接続できるかを一つひとつ検証していく必要がある。
Sの任を引き継ぎ、このミッションを担当しているのがTである。「複数の会社で1,000人規模が関わっている大規模なプロジェクトです。業務系サーバ内で動くシステムはアプリケーションを含めると数百点になり、各担当者の問い合わせに対応していく必要があります。言い方は変なのですが、本番の保守運用をしている状態がずっと続いているのです」。基幹系サーバの前に基盤という「門」があり、そこに業務系サーバの担当者がアプリケーションを携えて連日、行列をつくる状態といえばイメージしやすいかもしれない。

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こうしたテスト環境においてはプログラミングなどの技術的な能力より、むしろコミュニケーション能力が重要になるとTは断言する。「言われたことをやるだけでは、必ず意識のずれが生まれます。裏側にある真意を会話によって浮き彫りにして、共有することが大切です。さらに関わっている人数が多いので、各部門のキーマンを見つけて雑談などを交して仲良くなっておくと話が早くなります」。
メールは1日100通を軽く超え、電話対応の数も多く、直接、訪ねてくる担当者もいる。そんな担当者の声に耳を傾け、一進一退のテストを繰り返し、完璧な稼働を実現することがゴールとなる。社会インフラにふさわしい信頼性を担保する基盤づくりには、じっくり腰を据えて覚悟が必要になるのだ。
現在、そんなプロジェクトも稼働間近の佳境に入り、Tは今回のミッションの醍醐味を明かす。「地図には残らないけど、あの金融サービスのインフラは俺がやったんだという誇りはあります」。

人の血が通うやさしいシステムをつくる

今回のプロジェクトには、もうひとりキーマンがいる。新卒採用後、すぐにTの部下として現場に配属されたBである。「技術的な知識はほとんどありませんでしたが、自分の生活に深く関わる便利なシステムづくりに魅力を感じてメインに入社しました。このプロジェクトでいちばんの収穫になったのは、きちんと相手の話を聞き、自分の考えをちゃんと伝える力がついたことです。その力があれば、たとえ初心者でも楽しく仕事ができる環境だと感じています」。大規模なプロジェクトでしか得られない経験を重ねることで、ひと回りも、ふた回りも成長できたことを実感しているという。
エンジニアの仕事には技術的な知識は不可欠だ。しかし、本当に良いシステムを作るには技術だけではダメというのがTの持論だ。「最後は人と人との接点、心のつながりを築く能力が大事だと考えます。相手に信頼されなければ、いい仕事はできません。これからは、そんな能力を持ったエンジニア求められ、生き残っていくのではないでしょうか」。
最後に今後のビジョンについて2人に聞いてみた。Bは「今後は電子マネーがもっと普及し、世の中を便利にする新しい決済サービスなどもたくさん生まれてくると思います。こうした社会を豊かにする仕事に関わっていくことに、この仕事のやりがいがあると感じています」と熱く語る。一方でTは「金融系に限らず、さまざまな領域での個人認証が高度化しています。指紋、手のひらの静脈、目の虹彩といった次世代の個人認証では、システムでやりとりするデータ量が膨大になります。いま、興味を持っているのは、そんな個人データをスムーズなやりとりができる通信制御の仕組みづくりです」と意気込みを明らかにする。

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おそらく、当記事が公開される頃にはプロジェクトは完了、新しい金融系システムは社会インフラとして安定稼働しているだろう。人の目に触れないバックヤードにあり、サーバの集合体にデジタルデータが行き来するドライなイメージがあるかもしれない。しかし、このシステムには紛れもなく多くの人間の血が通っている。すべてのイノベーションは人の力なしには生まれず、使う人がいてこそ機能するものなのだ。